「もう一度君と踊りたい」を観た ②

 

相変わらずネタバレ、個人的感想だらけなのでその点はご了承下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二回目の夜公演を観たことにより、前半と後半で対照的なセリフや構図が多いことに気付いた。また色んなアイテムが象徴する意味についても考えてみたり。

 

・りんちゃんとたーちゃんが生まれ育った家庭環境が対照的。不倫の末に出来た子供で離婚により金銭的に苦しい母親と2人暮らしのりんちゃん。エリート官僚の父を持ち沢山の習い事をさせられていたたーちゃん。ダンスを通じて対照的な2人は心を通わせる。

 

・高3の時に将来について5人で話し合う時に、夜9時待ち合わせで一番最初にりんちゃんが公園に到着、一番最後に現れたたーちゃん。RINDAを続ける条件として父親に大学合格を課せられたたーちゃんが「絶対に俺はRINDAは解散させない」と誓う。

・皮肉にもたーちゃんがプロ契約を結ぶというラインを送ったのがきっかけで、りんちゃんがRINDA解散を発してしまう。最後に5人で踊るために夜9時に待ち合わせをした時はりんちゃんが一番最後に現れた。

 

・5人全員でスーツを着ていき、事務所とプロ契約をしに行こうとする=夢みる子供から大人へのステップアップ。バイトで貯めた母さんへのプレゼント代をスーツ代にあてたりんちゃん。夢を叶えて大人への一歩を踏み出すためにスーツを着たが、ワールドトリガー(大人)には選ばれず、仲間ともすれ違い激怒したりんちゃんはスーツのジャケットをゴミ箱に投げ捨ててしまう=ダンサーの夢を捨てる。

 

・中学時代、シミーがRINDAに入りたい一心で「お願いします!入れて下さい!」とりんちゃんとたーちゃんに頼み込む。

ワールドトリガーとプロ契約を結ぶのを引き止めるりんちゃんに向かって「お願いします!辞めさせて下さい!」と土下座するシミー

 

・たーちゃんがRINDAとしてプロ契約することになり大学を辞める時には、俺がたーちゃんの両親に土下座して頼み込むよと冗談を言うりんちゃん

・たーちゃんが事故死したことを自分のせいだと思い、霊安室でたーちゃんの両親に土下座して謝るりんちゃん

 

・小学生時代、りんちゃんがダンススクールで他の生徒から嫉妬によりいじめられて、お母さんに買って貰ったナイキの白いダンスシューズを川に投げ捨てられた事件。たーちゃんはりんちゃんがこの事をきっかけにダンスを嫌いになって欲しくないと願い、りんちゃん以上に必死に靴を探した。そしてたーちゃんは無事に川に捨てられた靴を見つける。

・最初にたーちゃんが事故で死ぬ瞬間、りんちゃんはある夢を見た。あの日、川の木に引っかかっているナイキの靴を取りに行くたーちゃんの背中をりんちゃんが押した。すると、たーちゃんは川で溺れながら笑顔でバイバイと言ってくる。これはりんちゃんがダンスを続けるきっかけとなった"ナイキの白い靴"=最後に5人で踊ろうと提案したたーちゃんの気持ちをりんちゃんが拒絶。すると、溺れるたーちゃんがバイバイと永遠の別れを言ってくる。(=死)

 

 

結末を分かってからもう一度見ると切ない部分が多く、この後の展開をつい思ってしまい少し泣きそうになってしまった。

また、りんちゃんとたーちゃんがメインの物語ではあるが、他3人もRINDAには欠かせないメンバーである。3人について少し考えてみた。

 

 

・シミー(清水)      瀬口黎弥 

ダンスを習っていたが中学にダンス部が無いためサッカー部に所属。RINDA2人の大会でのダンスを見て、RINDA加入を嘆願。ダイナミックな動きのダンスが特徴で、性格も明るいムードメーカー。実際は他のメンバーより自分はダンスのテクニックがないことをコンプレックスに感じ、劣等感を持っていた。たーちゃんと共に、ワールドトリガーにプロ契約を持ちかけられたことで、劣等感に苛まれていた自分にとっては最良のチャンスだと考える。

 

きっと一番最初にシミーがプロ契約を結びたいからRINDAをやめたいと正直に言い出さなかったら、おがぴーもごっちんもRINDAをやめるという気持ちを言えなかっただろう。シミーだって本当は5人でプロになりたかったはず。ワールドトリガーに呼び出された時に気合入れて5人でスーツ着ていこうと提案したのはシミーだった。最後、公園に辿り着いたりんちゃんにお前は自信持ってワールドトリガーで成功しろと言われたことにより、シミーの劣等感への呪縛は解かれてホッとした。

 

 

・オガピー(小川)       堀夏喜

シミーと同じ流れでRINDAへ加入。しなやかなダンスが特徴。実家が洋品店を営んでおり、RINDA特製デザインのTシャツやタオルを作成。ダンスの練習場所がない時にちょうど良い公園を提案。父親が脳梗塞となり、ダンスか家業を継ぐか悩んでいたが、ワールドトリガーに契約を持ちかけられなかったため家業を継ぐことを決意。

 

オガピーは主張し過ぎず、シミーとはまた対照的なキャラクターだったがRINDAを大事にしている気持ちは強かった。中学時代、実家で作ったRINDAのTシャツや、ワールドトリガーのオーディション大会で実家の店の従業員が作ってくれたRINDAのタオルは、その度にRINDA5人の結束と絆を強くした。でも、夢は大事だけど家族や実家の店もそれと同じくらい大事だ。その上で、ワールドトリガーに選ばれず完全に心が折れたオガピーはりんちゃんの様にRINDAを続けることは出来なかった。最後にりんちゃんの自宅に中学時代と同じデザインで、大人になったサイズのRINDAのTシャツを送ってくれたオガピーの気持ちはRINDAへの愛の現れだった。

 

 

・ゴッチん(後藤)      木村慧人

1人だけ中学で違うクラスだったが、RINDA2人のダンスを大会で見てRINDA加入を希望。ブレイクダンスを得意とし、4人とはまた違ったダンススタイル。ワールドトリガーに選ばれなかった為、自分のしたいダンスを突き詰めるとRINDA脱退を決意。常に冷静だが、「少なく見積もっても〜」が口癖で結構な自信家。でも誰よりも現実を見ており、はっきり物事を言う。プロ契約の場でも5人中2人とは誰のことか怖くて聞けないりんちゃんに対してゴッチんはすぐに聞いたり、ワールドトリガーに選ばれず焦るりんちゃんに向かって「負けを認めろ」と現実を突きつける。プロ契約を結ぶか悩むたーちゃんにも、「りんちゃんの為を思ってRINDAを続けるならその優しさは罪だからな」と言い、この言葉の影響もあり、たーちゃんはプロ契約することを決意。

 

ゴッチんが私の中で一番掴めないキャラクターだと思っていた。RINDAに加入する時も自分が入ったほうがダンスの総合戦力が上がると発言したり、RINDAを抜ける時も自分のやりたいダンスでプロ目指すと決めたり、自分が得意とするブレイクダンスへの自信とこだわりは強い。でも、中学時代にりんちゃんとたーちゃん2人のダンスを見て、仲間と一緒に踊りたいと強く惹かれたゴッチんはRINDAの皆に自分から声をかけた。ゴッチんはきっと5人でプロになれるならRINDAでいようと思っていただろう。でも選ばれなかった現実を受け止め、今のままRINDAを続けるより2人のプロ契約の背中を押して、自分のしたい方を素直に選び、RINDAはこれで終わりにしようと言った。ゴッチんの現実を見据えた厳しい言葉はりんちゃんを追い詰めたが、こうやってはっきり言う人がいなかったらRINDAはこうして終われなかったとも思う。

 

 

 

ここからは個人の演技感想です。あくまで個人的意見

 

黎弥くんのシミー、福岡出身を活かし博多弁を盛り込んでいたのがとても印象的だった。シミー以外にも、ワールドトリガーの部長、オネエ口調なダンスの先生、お母さんやおばあちゃん、駄々をこねる子供と5役くらいコミカルにこなしていたが、演技力この中で一番あるんじゃないかって正直驚いた。黎弥くんのコミカルな演技でこの物語に笑う部分が加わり、ユーモアな場面が出来てバランスが良かった。あと、台詞を言う時に台本にのめり込まずに自然に前を見ながら話すのも凄いなと思った。同時に表情でも演技していたし話す時の間の取り方ももちょうど良い。これからもっと演技の仕事して欲しい………

 

堀夏は声がとても良かった。落ち着きのある声と話し方、主張し過ぎないけれど実はRINDAを強く愛しているオガピーのキャラクターに合っていた。たーちゃんを演じる堀夏を見てみたかった。それもきっととても似合うんだろうなと思った。なっちゃんの演技ももっと見てみたいし、落ち着いた声なのでナレーションとかそういう仕事もして欲しいと感じた。

 

慧人君も話す時に前や話し相手の方を実際に見ていたのが印象的だった。そして表情が役と一致している。タカシ兄ちゃんの時にはりんちゃんを楽しそうに見る目、ゴッチんとして厳しいことをメンバーに言う時には突き刺すような目をしていた。普段の慧人君とは反対の力強い口調が多くて、それも意外だったな。色んな役が出来そうな慧人君強い。

 

 

 

最後に樹君(りんちゃん)と慎君(たーちゃん)について。

樹君は最初少し早口だなと感じ、噛むことも何度かあり、初めての朗読劇かつ少ない稽古時間の中で緊張してるんだなと感じた。(主役で台詞量も多いし、噛むことを朗読の技術基準にするのはまた違うと分かっているが)

でも喋り方が最初は少し自信がないりんちゃんに合っていると思ったし、ダンスやたーちゃんと出会うにつれ、テンションが上がった樹君はまさにりんちゃんそのものだった。ワールドトリガーに行った帰り道、RINDAで仲違いし激昂している時のりんちゃんの演技は引き込まれた。基本的には台本に目線を落としているが、「RINDA解散」や「俺はもうダンスを踊らない」と宣言する大事なシーンで客席に顔を向ける。その時の目が本当に怒りと絶望に満ちていて、とても印象深かった。

母親との思い出を振り返るシーンで感極まって泣く樹君が美しく、自分自身と重ねているのだと分かった。

ちなみに朗読劇だが、後ろのスクリーンにモニターで役者の顔がアップで映し出される不思議な演出だった。なんでスクリーンに映すんだろうと最初思っていたが、生で演じる姿を見ても勿論いいし、スクリーンで細かい表情まで見ることが出来たのは結構良かった。

 

りんちゃんが最後公園に辿り着き、RINDAの4人に向かってそれぞれの道を応援しながら自分もダンスをやめずに歩き出すことを宣言し、また5人で集まろうと言う場面が本当に素晴らしい。高校生の頃までは「たーちゃんのいないRINDAはRINDAじゃない。たーちゃんがいないなら解散」と言っていたりんちゃんが、事務所のオーディションで優勝した時には「誰か1人でも欠けたらRINDAじゃない」と思うまでに5人のRINDAを愛するようになっていた。誰よりもRINDAを大切に思うばかりに、他の4人の気持ちのズレに気付かなかったりんちゃんが、最後には4人のことを見つめ直せるようにまで成長していた。

もう会うことはないとお互い分かっているのに、また一緒に踊ろうなと言い合うりんちゃんとたーちゃん。他の3人は5人で踊ることは2度とないことを知らない。最後お互いはそれぞれ反対側に歩き出し、りんちゃんは悲しい顔で振り返り、「またな」とたーちゃんに声をかける。たーちゃんもそれに笑顔で頷き、物語は終わる。その時の樹の悲しげな顔も印象的だった。

 

あと、どっちでも良いんだけど単純に気になったことがあった。靴の発音がく↑つであることが多くて、これは西の人だからなのか?と疑問だった。特に修正受けなかったのだろうか。ただ標準語の発音の時もあるので、どの靴の発音が正解か分からなくなる。ちなみに私は関東育ちなので標準語発音。

 

 

 

慎君は朗読劇大丈夫だろうかと勝手に余計な心配していたが、そんな心配やはり不要だった。

「主人公」を通して演技力が確実に上がったのを感じた。ニコニコしながら話す様子やりんちゃんのダンスを見て無邪気に興奮するところがとても可愛く、たーちゃんにぴったりだと思った。緊張する瞬間すらも楽しもうとする所、ダンスが一番上手いのにそれを鼻にかけない所、たーちゃんは不思議な人だ。でも、ダンススクールでりんちゃんの靴を川に捨てたいじめっ子たちに向かって一喝する場面では、泣きそうな顔で誰よりも真剣に怒っていた。いつも穏やかなたーちゃんが友達のためにそこまで熱くなれる。それが慎君に似合っていた。

今日の夜に死ぬと分かっていながら、今日という人生最後の日をもう一度繰り返すシーンで、慎君はボロボロ泣いた。うまく言えないけれど、とても自然に泣いた。それが本当に美しくて、気付いたら私も泣いた。私は自分が今日死ぬと分かっていたら怖くて仕方がなくて、前と同じように1日を過ごせないだろうなと思った。

当たり前の日常に感謝をし、来ないはずのりんちゃんを信じて公園にまた行く。それでも死ぬ時間が近付き、怖くてしょうがなくなった時にりんちゃんが公園に現れた。僕のヒーローが現れた!という時のたーちゃん、慎君の顔、泣きながらパァッて笑顔になる瞬間がとても眩しかった。りんちゃんが緊張して体が固まりダンスが踊れなくなった時は、いつもたーちゃんが一緒に踊ろうと背中を叩いて魔法をといてくれるヒーローだった。同じように、恐怖に震えるたーちゃんにとっても、りんちゃんはヒーローだった。

「大好きだよ」「俺も」と笑顔で言い合うりんちゃん、たーちゃんの表情も忘れられない。最後のダンスが終わった後、たーちゃんとりんちゃんはいつも通り、ハイタッチをしそのまま手を握り合う。それがとても力強く、2人の絆を本当に感じさせた。

 

 

 

あと龍友君が歌う主題歌がとても良いので、その曲が都度都度流れる度にグッときた。最後、その曲に合わせて5人で実際にダンスを披露するが、皆の全身全霊のダンスとても良かったな。配信されたらまた聴いてるうちに泣いてしまうんだろうなと思った。聴きまくります。楽しみ。

 

 

他にも色んなメンバーがこの作品を演じたということは沢山の色んなRINDAが存在したんだな。皆がこの作品に向き合って気付いたことは何だろうとつい考えてしまう。今日この日にこの5人のRINDAに会えたことは慎君のいう通り、彼らの思い出にも、そして私の思い出にも一生残り続けるだろう。

 

 

 

 

ちなみにこれはりんちゃんが初めてダンスしてるタカシ兄ちゃんに出会った時に踊っていた曲。

Gang Starr - Code Of The Streets

Code of the Streets

Code of the Streets

MV https://youtu.be/u1kwZUeog30

 

Gang StarrはGuru(グルー)とDJ PremierDJプレミア)によって1985年に結成された東海岸を代表する伝説的ラップデュオ。

かっこいい。1994年にリリースされたヒップホップダンスにぴったりな超有名曲。

タカシ兄ちゃんにこの曲を教えて貰い、田舎のCD屋には無いため取り寄せてまで手に入れたりんちゃん。

スーパーのおつかい帰り、たまたまいつもと違う道を通ったことでりんちゃんはタカシ兄ちゃんとダンスに出会った。人生案外そんなものなのもしれない。

 

 

 

 

 

 

『もう一度君と踊りたい』を観た ①

 

「もう一度君と踊りたい」2/20 兵庫公演

昼夜合わせて2公演観劇した。

ちなみに私はTHE RAMPAGEの長谷川慎君推しで、今まで他のBOOK ACT公演は観たことないです。

 

※ネタバレあり、あくまで個人的な意見・解釈ですのでその点はご了承下さい。文章力無いのに無駄に長文です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず前提として私はこの物語の脚本家、鈴乃音もとい鈴木おさむ氏が苦手だ。

元々、鈴木おさむ氏にそこまで興味はなかったが八王子ゾンビーズを観てから違和感を持ち、その後色々な事が積み重なり苦手となってしまった。でも正直遠い世界のことのように感じていて、自分の推しと関わらなければいいなくらいに思っていた。

 

だからこの朗読劇には行くか悩んだ。物語も初演を観た方の感想を拝見し、仲間の死があるということを知り余計に悩んだ。悩みに悩んだ結果、応募したし実際に観劇しに行った。

鈴木おさむ氏にLDHと今後関わって欲しくないなら、お金を落とすべきではない、行動で事務所に分からせなくてはいけないという意見もとても良く分かる。

でも私は今回慎君の演技が見たい、5人の演技が見たい、この物語がどういうものか知りたいという気持ちが勝ってしまったため行ってきた。自分で行くと決めたことが罪に思えた時もあった。取り敢えず、自分が後悔しないようにと行動した。それぞれの判断で行っても、行かなくても、どちらでも正しいと思うようにした。そして、鈴木氏のことは一度忘れてこの作品に向き合ってみようとした。

 

 

 

 

で、結論から言うと観て良かった。

都合の良いオタクだなと思われても仕方ないが、それくらいにとても良かった。

鈴木氏の脚本が良かったというより、与えられたこの物語を演者5人が真摯に向き合い、解釈し、そのメッセージを受け止めて、こちらに伝えてくれたのが良かった。

鈴木氏に利用されてアーティストが可哀想という考えが今まで少なからず心の奥にあったが、その気持ちを捨てた。そんな気持ちで見ていたら、真剣にこの物語に向き合う5人に失礼だと本気で思った。

 

 

 

「もう一度君と踊りたい」のあらすじ

両親が離婚し、祖母の家に預けられた主人公『りんちゃん』(倫太郎)は小4のある日、プロのダンサーを目指す高3のタカシ兄ちゃんと出会う。一緒に踊るにつれダンスの楽しさを知り、のめり込んでいくりんちゃん。その後、タカシ兄ちゃんは高校卒業を機に上京。一緒にダンスをする人がいなくなったりんちゃんだが、小6の時に母親に連れられ上京。貧乏なため昼夜問わず働く母親と2人暮らしを始める。

ある日、ダンススクールで一番上手い『たーちゃん』(太一)と運命的に出会い、2人は親友となり、RINDAというダンスユニットを組む。中学に入り、新たに『シミー』『オガピー』『ゴッチん』という3人の仲間を加え、5人組となったRINDAは大会などで優勝し、いつしか5人はプロのダンサーを夢見る。ある日、りんちゃんは工事現場で働く疲れ果てている男性がかつてのタカシ兄ちゃんそっくりな事に気付き、もしかして踊るのをやめてしまったのか?と不安になり声をかけられなかった。そしてそれは自分は違う、絶対プロになるんだと夢への焦りを強くした。

大手プロダクションの"ワールドトリガー"が開催したオーディション大会にて優勝したRINDAは5人でプロ契約出来ると確信していた。だが、プロ契約を結べるのは5人ではなく、たーちゃんとシミーの2人だけと事務所に言われてしまう。2人は今度デビューするグループのダンサーメンバーとして選ばれ、他の3人はそのグループのバックダンサーなら仕事を振れるという内容だった。この事をきっかけに、他の4人と自分のRINDAへの思いが違っていることに気付いたりんちゃんは激怒し、絶望した。オガピーとゴッチんは別の道へ、たーちゃんとシミーはプロ契約を結ぶ事を決意し、最後にいつも踊っていた公園で5人で踊ろうとたーちゃんはりんちゃんを誘う。

だが、もうダンスをやめると決めたりんちゃんは約束の時間に公園に行かなかった。その間に、りんちゃんを迎えに行こうとしたたーちゃんは交通事故に遭い亡くなる。りんちゃんはその事実を知り、たーちゃんの遺体と対面した時に意識を失った。すると、りんちゃんの意識の中に、タカシ兄ちゃんが現れて、たーちゃんが死ぬ結末は変えられないが今日という日をもう一度繰り返すんだと告げに来る。目が覚めると、たーちゃんが亡くなる日の夕方。同じ日を繰り返している。りんちゃんは苦悩しながらもダンスが楽しかったきっかけを思い出し、RINDAの4人が待つ公園に向かう事を決意。同じくたーちゃんも死後にもう一度、人生最後の日を繰り返すことを告げられ、自分が死ぬことを知りながら人生最後の1日を全く同じように過ごして夜は公園でりんちゃんが来るのを待った。そして、りんちゃんは公園に現れ、5人でRINDA最後のダンスを踊る。

 

 

 

 

 

私はやっぱりアーティスト本人の人生の辛い部分を重ねるような物語の演出は苦手だ。

数年前にジャニーズの舞台でもそういったのを見て苦しくなったことがある。セクゾ佐藤勝利君が実際に父が亡くなった2ヶ月後に、舞台上のストーリー内で父が亡くなった告白、自分の名前をつけてくれた父の思いを語るシーンがあった。その時の勝利君を見ていて、こうやって本人の心をえぐってまでエンターテインメントに昇華する必要があるのか?と私まで辛くなった。でも、勝利君はジャニーさんのこの提案に悩んだが、父への花道として受け入れた旨をファンへ伝えてくれたので彼の気持ちにも賛同したかった。また同作品でキンプリ平野君の母子家庭設定も苦しかった。どうして本人の人生を切り売りさせるのかと。

 

だから今回の朗読劇もそうなるんじゃないかと不安だった。実際見てみて色んな設定が明らかに彼らに重ねられたもので、例えばプロ契約を結ぼうとするプロダクションはまさしくLDHがモデルだった。RINDAが最初にダンスの練習場所にしようとした新宿の安田生命ビル前は実際にダンサーの聖地であり、過去にデビュー前のEXILEメンバーもここで練習していたとよく話している。りんちゃんの母子家庭設定、小学生の時アーティストのライブに母親に連れて行かれたことがきっかけでダンススクールに入るたーちゃん。まさに初演キャストの玲於君と大樹君をなぞらえている。LDHからどう依頼されたかは知らないが、とにかくこうした当てがきの脚本はあまり好きにはなれない。今回の公演を見られて良かったと思ったし、他の人が演じたらどうなるんだろうと興味が湧いたが、もう出来るならば再演はしなくていいかなと思った。でも実際、別キャストで再演されたら観に行く可能性だってある。決意がすぐ揺らぐ、心の弱いオタクだ。

 

たーちゃんの死については、やはり翔太君を連想してしまうだろうなとは思った。直接的ではないが会場にいる誰しもが少なからず思い出す。でも思っていたものとは少し違った。

りんちゃんが言う不平等というのは夢が容易に叶わないという事以外に、たーちゃんの死にも当てはまり、いつ身近な大切な人が、自分が、死ぬか分からない。それ故に「結末は変えられなくても中身は変えられる」という、夢の中に出てきたタカシ兄ちゃんの言葉の通り、1日1日後悔のないように生きるべきだ、というメッセージが込められた物語だった。それってありきたりなメッセージなんじゃと思っていたが、自分はそうやって生きることが出来ているかとふと考えた時、違うなと分かった。

たーちゃんが亡くなる「今日」をもう一度繰り返すと知った時、行動を少し変えたことで自分のダンスの原動力に繋がる人達の新たな一面を知り、後悔のない様に生きようとRINDAの4人が待つ公園へ向かったりんちゃん。自分が死ぬ運命だと分かっていても、死ぬことを避けようとせず、1回目と全く同じように今日を繰り返したたーちゃん。相手が今日の結末を知っていることはお互いに知らないのでこの2人の行動がどちらか欠けていたら、5人で公園に集まって踊ることは出来なかった。

たーちゃんが死ぬという結末は変わらないけど、2人にはこうしたチャンスを与えられ後悔のないように生きた、ということになっている。私は最初、結末が変わらないなんて意味がないじゃないかと思った。でも今回のストーリーの様に、今日という日をもう一度繰り返すことは現実では起こり得ないからこそ、そこに至るまでの中身、後悔しないように常に生きる大切さを再認識させられた。そして、その中身によって結末の更に先の未来は変えられることも分かった。

 

メインの2人もだが、ファンタの3人はその事を実際に経験し誰よりも分かっている。そこを分かっていてこうして泣かせようとする鈴木氏が嫌いなのだが、メッセージとしては間違っていない。そして、5人の涙は作られたものではなく本当に美しいと感じた。昼夜で1日に2回観たが、昼はたーちゃんが死んでしまうことが分かってはいたけどかなりショックで、観た後もう一回これを観るのか、と苦しくなった。

でも、夜の2回目は落ち着いて見られたのか涙ぐむことは多々あったが不思議と昼よりも泣かなかった。最後の方はどうしても少し泣いてしまったが。自分の涙の量は減ったが、物語に集中出来たので、5人の感情がより強く感じ取れてとても良かった。5人の演技もより良くなっていた。少しの間、鈴木氏のことを頭から切り離し、物語を見つめたら大事なことが少し分かった気がした。

 

もう一度今日を繰り返すと分かった時に、たーちゃんが死んじゃう!よしすぐに公園に行こう、とりんちゃんがすぐに決意した訳ではない。自分にとってのダンスの原動力である3人にまつわる出来事に遭遇し、戸惑いながらも自分の中で徐々に考え直してから、自分自身がダンスを続ける為にも、公園に向かおうと決意した過程が描かれていたのは個人的に良かった。

自宅で目が覚めて、オガピーから宅急便で届くRINDAのTシャツを1回目では破り捨てコンビニで日本酒を買い自らを酒で潰した。2回目では破り捨てることをやめ、たーちゃんに昔見つけて貰ったナイキの靴を引っ張り出して、コンビニでは酒ではなくお茶を買った。こうした小さな行動の変化がりんちゃんを変えた。

そのまま外に出たりんちゃんは、たーちゃんは死ぬのに自分はなんで生きる?こんなの不平等だと嘆くが、スーパーで自分の為に働く白髪の増えた母親、女性アーティストのバックダンサーとして踊っているタカシ兄ちゃんを知り、不平等な中でも皆一歩ずつ歩んでいる、俺もこうならなきゃいけないと考えさせられた。そして、初めてたーちゃんと出会ったダンススクールを偶然通りかかり、自分のダンスを先生や生徒の子供達に褒められたことにより、たーちゃんにダンスを初めて褒められたことを思い出した。自分のダンスを必要としている人がいることを。結末は変えられないが中身は変えられる、後悔のないように生きる為には何をするべきなのか、りんちゃんはそこで気付く。

 

慎君は「この先も自分の人生に死ぬまで残ると思います。この作品に出会えたことを奇跡だと思っています。」と夜の終演後に言った。確かに奇跡だと思った。観るまで先入観に囚われて、不安だった。でも実際に見て、慎君の姿を見てこの言葉は嘘じゃないと思えた。5人の演技と想いがこの物語を大切なものにしてくれたんだと思う。賛否ある物語だとは思うが、私は出会えて良かった。

 

 

 

 

皆の演技や作中の登場人物についての感想等は次の記事に書いてます。